時計の針が、午後三時を少し過ぎたころ。
レースのカーテン越しに、やわらかな光が差し込んでいた。
カルボナーラの湯気がまだほんのり漂い、チーズの香りが空気に残っている。
彼がソファに腰を下ろし、ゆっくりとワイングラスを傾ける。
淡い琥珀色の液体が、光を受けて小さく揺れた。
その横顔を見ているだけで、胸の奥にかすかな熱が灯る。
「これ、少し冷やしておいたんだ」
そう言って、彼が冷蔵庫から出したのは、レモン色のシフォンケーキ。
ひとくち食べると、ふわりとした甘さのあとに、レモンの酸味が舌をかすめる。
その爽やかさが、彼の指先の温度と重なって、身体の奥をくすぐった。
アルバムを開きながら、彼は学生のころの話をする。
陽に焼けた肌、サッカーに夢中だった笑顔。
ページをめくるたびに、あのころの無邪気さと、今の静かな熱が交錯していく。
「ねぇ、itoって知ってる?」
カードを並べる彼の指が、かすかに触れる。
その一瞬、時間が止まったように思えた。
外では小鳥の声。
部屋の中は、午後の光とふたりの呼吸だけ。
レモンの香りが残る唇を、グラスの縁で濡らす。
彼の視線が、そこに落ちた。
視線が交わり・・・レモン味の唇が重なりあった。
昼と夜のあいだで、心がほどけていく音がした。
2025/11/03 15:18:01(QuRVGtiN)